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選手の読みとファンの読みが一致したとき当たり車券が転がりこんで来る 準優戦のメンバーは、中村文彦(福井・74期)との組み合わせが予想されたがその通りになった。 しかし、中村と一緒に組み込まれたことは私にとっては願ってもないチャンスで関東勢の小野 - 吉田 - 上原ラインに対して勝算は十分にあった。ただ決勝に中村が乗ってくれないと厳しいメンバー構成が予想されるだけに、中村には是が非でも3着には残って欲しく、事故点を最小限(走注3点)に押さえて小野の捲りを封じる手だてを考えていた。 中村 - 鷲田 - 山本の近畿ライン、小野 - 吉田 - 上原の関東ラインに対して、波能 - 星野 - 樋口の中部ラインは中団狙いになるだろうから実質二分線の闘いだった。事故点の事を考えると私の出来る「仕事」は走注3点まで(ここまで54点)で、スタート牽制(9点)はできない。最近、期末はいつも事故点の計算ばかりで気が滅入ってしまうが、これも自分が犯してきたことだから仕方がない。何とか誤魔化し誤魔化しでも結果は残さなくてはならないプレッシャーがのしかかってきた。そして、自分の事故点リミットがスタートで影響しなければいいが…と、祈るような気持ちで発走台に向かった。 小野にしても自分が前に付けば波能以下に切り換えられ7番手になることぐらいは考えているだろうし、そうなったら私は事故点を付けられないから前に出なければならないと思っていた。しかし、号砲が鳴って2秒ぐらいの牽制があったが、あっさりと小野が前に行った。(良かった…祈りが通じたのだろうか?)私はそう思った。小野の心中は分からないが、(どうせ地元の福井勢は死んでも前には付かないだろう)と考えていたのだろうか。そういう選手の思惑と駆け引きを読むことが競輪の醍醐味の一つであろう。選手の読みとファンの読みが一致したとき当たり車券が転がりこんで来るのかもしれない。 スタートして二周を回ってところで隊列は前から小野
- 吉田 - 上原 - 波能 - 星野 - 樋口 - 中村 - 鷲田 -
山本で落ち着いた。小野はS級で活躍していた実力者で、私も過去何度か一緒に顔を合わせたことがあり、その走り方は知っている。どちらかといえば先行より捲りが強い印象だったが、最近は大きい数字が目立っていて、知る限り以前の破壊力は陰をひそめているような気がしていた。(この展開なら中村が好位から発進すればの二人とも残れる)と周回中思った。 あと一周の4コーナーで小野は一旦私の後ろに入ったが、インから星野 - 樋口にすくわれ、最終バックストレッチでは中村の先行以下、鷲田 - 星野 - 樋口 - 山本 - 波能と続き、結局、小野 - 吉田 - 上原は後方となった。 私はバックから再三後ろを振り返って小野の位置を確認した。最終3コーナー、小野の黒いユニフォームがかすかに見えた。一回、二回、三回と振り返り、小野の捲りのスピードと中村のスピード、そしてゴールまでの射程距離に合わせて私が何処から仕掛けていけばいいのか、難しい判断だった。中村を明日の決勝の為に残さなくてはならないし、小野の捲りは振り返るたびにその距離をグングンと縮めてきた。 最終4コーナー、私はここが限界とばかり中村を交わして行った。 1番人気(枠連5→6 290円・車連7-9 560円)という地元の責任が、(何が何でも今日は1着を獲らなければならない)という気持ちにさせていたかもしれない。それが最終4コーナーから、もしかして早めの踏み込みだったかもしれない。しかし、中村をかばってもう少し踏み込みが遅かったら小野の勢いに3着に破れていたかもしれない。 控え室に戻った後、私は中村に「悪かったな、残せなかったよ」と謝った。 中村は、「いえ、自分に力が無かっただけです」と、悔しい気持ちを抑えながらも笑顔でそう言ってくれた。 |
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